我々大人は「部活動に夢を見る」。「部活動を頑張った子は社会に出ても頑張るだろう」と。そんな部活動の価値はいったいどういったモノ何だろう。これまで長きに渡り高校野球界に貢献されてきた、静岡県高等学校野球連盟会長の清水淳次校長に話を聞いた。

「部活動に価値はあるのか」



清水先生、よろしくお願いいたします。先生は、長きに渡って高校野球部に指導者として携われてきました。まずは指導者を目指すきっかけなどございましたらお教えください
小学6年生の時の10月に地元に野球少年団ができ、すぐさま入団しました。中学では野球部に所属。当時の野球人気は凄まじく、部員は100人近くいました。3年時にはキャプテンを任され、チームは目標であった中体連の県大会優勝を果たすことができました。指導者を目指すようになったのはこの頃です。当時は今とは違うアプローチでの指導でしたが、指導者がとても魅力的に見え、どんどん引き込まれ、職業観が芽生えてきたことを覚えています。高校は「文武両道」を掲げ、当時シード校の常連だった浜松西高校に進学しました。そしてここでも3年時に、目標であった甲子園に出場することができ、高校野球の指導者を志すようになりました。高校野球には指導者として24年間、携わることができました。

指導の中で、心掛けられていたこと、大事にされていたことはありますか?
普段の練習に取り組む姿勢は最も大切にしていました。限られた時間の中で一球一球を大切にする。まずは自分が野球をできることに感謝し、礼節を重んじ、その表現としてどんな時にも全力疾走する。周りの状況に気を配り、今自分が何をすべきか瞬時に判断し、躊躇なく行動に移すことが成長の鍵だと考えてきました。野球を通して心身を鍛錬し、人間形成を目指す。学生野球の真髄を追求することは、常に「自分との戦い」です。一人ひとりがそのような高い意識で一丸となった時、最高の「夢と感動」を全員でつかむことができるのだと信じています。それはまさに青春時代にしか経験できない大きな自信となって、将来の人生において「心の宝」となるはずです。

部活動を通して子供たちが得る力はどのようなモノがあるとお考えですか?
指導していた野球はスポーツですから、「長期的な目標の設定」と「スモールステップ」、「挫折を味わいながら立ち上がる経験」、「個人の取り組み以上のモチベーション」をもらえることは大きいと思います。長期的な目標は「甲子園出場」とか「全国優勝」といったこと。スモールステップはその目標を達成するための日々の研鑽、努力。挫折から立ち上がる経験は、敗戦や失敗から何かを学び、それを乗り越えようとする経験。そして仲間の存在。仲間がいることで、一人では保てないモチベーションが保てる、お互い刺激しあえる。これらがスポーツから得られる力だと思います。さらに文武両道ということを考えれば「タイムプランニング」も重要です。限られた時間の中でどうやって成果を上げるか。これは野球だけではなく、勉強においても同じです。そしてこれらの力はこの先の人生で必ず必要となる力だと思いますし、人としての総合力が高まるのではないかと思います。部活動を通して子供たちが得る力ということですが、部活動をしていても気付かない子もいますし、部活動に所属していなくても取り組んでいる子もいます。「何かに本気になった子が得る力」とした方がしっくりくるかもしれません。仲間とともに取り組む部活動はあくまでこれらに気付くきっかけなんだろうと思います。

我々大人は「部活動に夢をみる」。目標を持ち、その目標に向かって日々の努力を重ね、失敗を乗り越えながら、仲間と協働する。部活動は理想とする会社員像に極めて近い。だからこう思う。「部活動を頑張った子は社会に出ても頑張るだろう」と。多分、多くは間違いではないが、必ずではない。我々が持つ体育会系のイメージは、「本気で頑張った何かがある子」なのかもしれない。では野球に打ち込んだ10年もの日々は無駄だったのか。答えは「ノー」だ。やりきったと思える日々は間違いなく財産だし、それは人生においての「心の宝」。人生を生き抜くうえでの糧となる。

最後に清水先生はこう加えた
「野球と出会えて良かった」と思ってもらえるよう、指導していたつもりです。野球をやってきて良かったと思えるのは、部活を引退してすぐかもしれませんし、社会人になってからかもしれません。さらには子供を持ってからかもしれません。いつのタイミングでもいいので、そう思ってもらえたら指導者冥利につきますね。


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