練習するほど体力が低下する!?
静岡産業大学誌上セミナー
講師/中西 健一郎先生
アスリートの体調管理に血中ヘモグロビン値を活用する
血液内のヘモグロビン量が不足している場合は、いわゆる「貧血」状態にあり、「疲れやすい」「だるい」等の慢性疲労や集中力低下を引き起こし、アスリートの場合は傷害の原因にもなります。アスリートは貧血とは縁遠くイメージされますが、数多くのトップアスリートを輩出するT大学運動部に所属する学生への調査では、男子学生で11.5%、女子学生では24.5%が貧血傾向を示しました。このようにアスリートが貧血傾向を示すことは「スポーツ貧血」と呼ばれ、代表的なものには、鉄分、タンパク質などの摂取不足を原因とする「鉄欠乏性貧血」があります。つまり、ハードなトレーニングを実践しているにも関わらず、回復のために必要な栄養摂取や休養(睡眠等)ができていない場合にスポーツ貧血を発症してしまうのです。「きついトレーニングをしているから疲れるのは当たり前だ」「集中できないのは気持ちの持ち方がよくないせいだ」とスポーツ貧血であるにもかかわらず、自己判断して発見が遅れるケースも多いのです。フィットネスを向上させるためには、適切な負荷(トレーニング)とその後の回復(栄養、睡眠、ケア)による超回復(より高度な負荷への適応)が欠かせません。「なかなか疲れがとれない」「がんばっても体力がつかない」といった悩みを持つアスリートにはぜひ一度「スポーツ貧血」を疑ってみることを推奨します。
Y高校陸上部での血中ヘモグロビン測定値の活用例
我々がコンディショニングをサポートしたY高校陸上部(全国高校駅伝大会の常連校)では、静岡産業大学に常備している非観血的な機材を用いて血中ヘモグロビンを測定した男子選手13名のうち7名が貧血傾向でした。こういった現状を改善するため、管理栄養士による栄養講習会やアンケート形式での生活状況調査を実施し、選手個々に適した食事及びサプリメントやトレーニング量を提示し、身体の回復を積極的に促進することに取り組みました。
その結果、10週間後の測定では、初回に貧血傾向を示した7名の選手のうち、5名が基準値を上回り、残る2名のうち1名も改善傾向を示しました。そして、このような成果がインターハイ地区予選におけるY高校陸上部の過去最高成績達成に多少なりとも貢献できたのではないかと考えています。
アスリートとスポーツ科学
デンマークのスポーツ科学者で世界的なサッカーのコンディショニングコーチであるJens Bangsbo博士は「サッカーは科学ではない。しかしながら科学はサッカーを進歩させる」と述べています。サッカーのみならず、スポーツにはまだまだ人間の叡智が及ばない領域が残されており、だからこそ我々に多くの驚きや感動を与えてくれています。しかしながら現代の競技スポーツにはテクノロジーの活用をはじめとする科学的なサポートが不可欠です。静岡産業大学では2021年4月からスポーツ科学部を開設し、多様なスポーツの専門家育成に着手します。我々も大きな志を抱いた若者と共にスポーツを学べる日を心待ちにしているところです。
協力/静岡産業大学