ラグビー日本代表の快進撃を理論的に紐解く

静岡産業大学

静岡産業大学誌上セミナー
講師/大沼 博靖先生

暗黙知の共有化でレベルアップを目指す

2019年のラグビーワールドカップ日本大会では、日本代表が予選を勝ち抜き、見事に決勝トーナメント進出を果たしました。個々の力では強豪国に劣る日本代表ですが、チームとしての力を発揮したことが勝因の1つでした。

チームとしての力を向上させる有効な方法の1つに、SECIモデルと呼ばれる知識創造のための考え方があります。元々は、一橋大学名誉教授の野中郁二郎氏が考えた経営に関するモデルです(図1参照)。このモデル、実はスポーツにも通じるところが多い点でも知られています。

SECIモデルとは、Socialization(共有化)、Externalization(表出化)、Combination(連結化)、Internalization(内面化)という4つの意味を持つ単語の頭文字を取ったものです。以降では、このモデルとスポーツの関係を説明していきます。

個々の選手が持つ力は、それぞれに特有のものです。スキル、フィットネスといった要素だけでなく、興味、自己概念、コツや勘なども含まれます。わかりやすく伝えるのが難しいのですが、例えるなら前者は「100mを10秒で走る」「100kgのバーベルを挙げる」といったように可視化( 理解 )しやすいものです。

一方で後者は、「流れるようなプレーを生み出した戦術眼」「仲間のミスを許す包容力」といったように、なかなか可視化することができないものです。こういった要素は暗黙知とも呼ばれ、共有化が難しいとされます。しかし、だからこそチームで共有化できれば、そこから新しい考え方や戦い方、個々のスキルアップにつながるアイデアを生み出すことができるのです。

スポーツをSECIモデルで考える

相手の動きを観察したり練習を共にする中で、何となく言葉で正確に伝えられないが「これは使える」「あれを参考にこうすればいい」といった上達へのヒントを見つけることがあります。実はこの状態がSocializationです。

Socializationは、身振り手振りを駆使したり、相手に微妙なニュアンスを伝えるための言葉を探し、試行錯誤している状態と言い換えることができるでしょう。このプロセスを繰り返す中でわかりやすさや正確さを高め、チームメイトと共有できる情報に置き換えていきます。この状態がExternalizationで、その際に言葉は大きな武器となります。

言葉や映像といった、個々で共有できる可視化された情報を見つけ出せれば、それらを組み合わせて新しいアイデアやスキルを生み出すことが可能となります。この状態がCombinationです。複数で情報を共有し合うことで、1人では気づかなかったことに気づく場合があります。戦略やスキルを考える際に、無意識に実践している人は少なくないでしょう。

今まで到達できなかった状態にレベルアップすることを、創発するといいます。Combinationによって、1+1=2という数式の解答を、正解である2以上にすることができるのです。これを確かなものとするためには、何度も繰り返し精度を高める必要があります。これがInternalizationです。このプロセスを継続し、さらなる成長へとつなげていくことがSECIモデルでは重要となります。

世界の強豪国を倒せた背景には、15人のパフォーマンスでは劣る日本代表が、人数以上の力を発揮したことが大きな要因であることは確かです。彼らの成功を語る際に、SECIモデルを引用して解説されるのは、このモデルが持つ仕組みによるところが大きいといえます。

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協力/静岡産業大学

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