子どもの世界を科学しよう。
-幼い頃の「記憶」がもたらす影響とは!?-

静岡産業大学

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一番古そうな記憶を思い出してみよう

皆さんは、自分の子どもの頃のことを覚えていますか?家族が撮ってくれた写真などを見ずに、ほんの少しだけ昔のことを頭の中で思い巡らしてみてください。思い出せる景色やイメージ、あるいは嬉しかったことや悲しかったことなども含めて、皆さんにとって一番古そうな記憶は何歳の時の、どんな思い出ですか?

心理学的にいうと、高校生くらいの年齢で一番古い記憶は、平均で3歳7ヶ月くらいといわれています。人間の記憶は歳をとるにつれて古い記憶の年齢はあがり、やがて80歳くらいの高齢になる頃には、今、思い出してもらった記憶でさえも思い出せなくなっているはずです。

乳児期に体験したことはその後の人生にも影響する!?

さて、皆さんは、暴力的な父親に高校生の子が叩かれるのと、赤ちゃんが叩かれるのとでは、どちらの影響が大きいと思いますか?「赤ちゃんは叱られた体験を覚えていない」と思うかもしれませんが、実は、子どもの脳はおよそ5歳頃までに神経細胞の構築が終わり、ありとあらゆる最も重要な土台が脳の中で築かれます。そのため、乳児期に体験したことは脳内の根幹部分に刻まれ、その後の人生に大きな影響を与えると多くの心理学者は考えています。

例えば、赤ちゃんが泣いたときに、直ぐあやして適切にその求めに応じる母親と、放置する母親では子どもの「愛着形成」に大きな違いがみられます。泣く子に直ぐに応える母親の子どもは「この世の中を信じていい」と思えることから安定した愛着が育ちます。愛着の土台が育つのは生後12ヶ月頃までですので、乳児期の家庭環境がいかに大切かわかります。これまで辛いことを体験した人が他人に優しくなるのではなく、優しい体験をした人だからこそ他人に優しくなれると私は思います。

日常の中にある「なぜ」が学びになる

もし、私たちがこれまでのことをすべて覚えているのであれば、「子どもの心理学」はやさしい学問になっていたはずです。ところが、実際、人間は昔のことを思い出すことはできません。だからこそ、私たち研究者は一生懸命に研究をするわけです。なぜ、赤ちゃんは「いない・いない・ばあ」があんなに楽しそうなのでしょう。なぜ、幼児期の「鬼ごっこ」があんなに楽しくて、走り回れたのでしょう。どうして心の中に「初恋」が勝手に生まれたのでしょう。このように子どもの頃に心を巡らしてみると、自分ではない他人の心を覗いているような気がしますよね。このような「なぜ?」について科学的な根拠データなどをもとに解析していくのが「心理学」なのです。

「心理学」を学んで子どもの世界を探求してみよう

心理学は「科学」です。科学的な証拠となるデータが無くては一切の結論が出せません。そのため、赤ちゃんのデータでも、幼児のデータでも、すべて実験・調査や検査、観察などの方法を通じて得ています。最近ではMRIからデータを得ることもあります。心理学を学び「心を探究すること」は、たいへん面白く、楽しいものです。皆さんにも、ぜひ興味を持っていただき、「子どもの世界」を探求してもらえたら嬉しいです。

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