PK戦で勝つためには苦手な方向に蹴れ!
-「ゲームの理論」で人間と人間の関係性を論理的に読み解いてみよう-
静岡産業大学
誌上セミナー
「ゲームの理論」の起源
今から約75年前、著名な数学者であり、物理学者でもあったフォン・ノイマンは、経済学者であったオスカー・モルゲンシュタインと一緒に「ゲームの理論」を発表しました。ノイマンは、人間の行動を「数学モデル」で表したいと考えていましたが、恋愛など複雑な話を数学モデルで表すのは難しそうだと考え、比較的考え方の筋道が見えやすい「ゲーム」や「駆け引き」を対象として研究することにしました。
サッカーのPK戦を例に考えてみよう
例えば、サッカーのPK戦では、ペナルティ・スポットからゴールまでの距離が短いので、キーパーはキッカーがボールを蹴ってから反応したのでは止められません。そこで、キーパーは様々な条件や状況を頭に入れて跳ぶ方向を決め、また、キッカーも蹴る方向を決めます。このように、「勝負」が発生した二人の関係は、「ゲーム」になります。では、仮にキーパーとキッカーの関係が、「表1」のようなものであったとしましょう。キッカーがキーパーの逆に蹴れば、当然、PK戦は成功しますが、キッカーがキーパーの反応と同じ方向に蹴った場合の成功確率は1/2になるとします。キッカーがいつも右に蹴っていれば、キーパーは黙って右に反応しますが、このゲームの最低の成功確率は1/2です。ゲームは勝負なので少しでも成功確率を上げたいと考えるのが普通です。とすれば、どう蹴るのが良いと思いますか?
「ゲームの理論」によると、この場合は、キッカーもキーパーも偏って蹴ると相手に読まれてしまうので、半々の確率で左か右を選択すれば良いというのが答えになります。そうすれば、この成功確率は3/4になります。なぜなら、左左、右右の確率が1/2で、そのうち1/2は阻止されてしまうからというのがその理由です。
もう一つの例から確率を考えよう
ところで、普通、キッカーは右に蹴るのと左に蹴るのでは得意・不得意があります。そのため、仮に、キッカーが右に蹴るのが不得意で1/3はゴールを外してしまい、そして、キーパーに同じ方向に跳ばれると100%阻止されてしまうとしましょう。この場合、キッカーとキーパーの関係は「表2」のようになります。このような条件で、もしも自分がキッカーであったとしたら、どうのような確率で得意な左に蹴ったら良いと思いますか?
もし、得意の左にキッカーが蹴るとわかれば、キーパーは左に跳び、阻止されてしまいますよね。そのため、実は、この条件であれば、キッカーは3/5の確率で苦手な右方向へ蹴ることが一番成功率を高めることになります。試しにキッカーが1/2の確率で左右に蹴るとすれば、右に蹴った場合の成功確率は1/3、左に蹴った場合の成功確率は1/2です。それでは左に蹴った方が良いかというと、優秀なキーパーはそれを読んでいて左の方に多く跳んでしまいます。右に蹴っても左に蹴っても同じ成功確率にするためには、キッカーが1/2よりも多く苦手な右に蹴る必要があるのですが、もっと詳しいことに興味のある方は参考文献を参照してください。
「ゲームの理論」はいろいろな方面の学問と繋がっている
こうした「ゲームの理論」が発表されると、ゲームの分析ばかりでなく様々な方面で、人間と人間の関係を分析する道具として研究されてきました。例えば、国際社会での外交交渉の分析、経済的な市場取引の分析、社会的な人間関係の分析などです。現代のミクロ経済学の理論では、ゲームの理論が重要な分析ツールとして用いられたりしています。また、「スポーツ」に関する勉強も身体的な方面ばかりでなく、実はこうしたゲームの分析など様々な「学問の入り口」にもなります。逆に、私のように応用数学の勉強をした者としては、数学がスポーツの分析にも繋がることに非常に面白みを感じています。勉強の入り口はどこであったとしても、様々な学問に繋がっているのだから、興味のある所から入っていけばいい。そういったことを皆さんに少しでも感じていただきたくてお話をしました。
参考文献:松井彰彦「高校生からのゲーム理論」ちくまプリマー新書(2010)