野球をやってくれて、
 ありがとう。

編集長のひとりごと

本当に早いもので、まもなく“最後”となる、高校野球の選手権大会が始まる。

思い起こせば小学校三年生に上がる直前の冬、息子がこう切り出した。
「野球やりたい」。
背は小さく、ガリガリ。おまけに運動神経の欠片もなかった彼はそう言った。
「じゃあ、一つ約束できる?小学校が終わるまで続けること。どう?」。
正直、何かを約束しないと途中で投げ出すと思った。
彼は、「うん。やれる!」。大きな声で返事をした。

それから週末になると、練習場所である小学校のグランドへと向かった。
ブカブカのユニフォームを着、真新しいグローブと水筒をかごに入れ、背丈ほどもあるバットを背負って、フラフラしながら自転車を漕いだ。
たまに練習を覗くと、大きな声を張り上げて、家では見せない真剣な表情でボールを追っていた。
日々、男らしくなっていく姿を見、微笑ましく思った。

中学生になると、何の部活に入るか大いに迷った。
てっきり野球部に入るものだと思っていたため、随分とヤキモキしたが、結局、野球部を選んでくれた。
“人生最初の選択”とも言える、中学の部活動選び。今思えば、彼が真剣に悩んだのも、当然のことだったかもしれない。

中学ではとことんシゴかれた。
来る日も来る日も走らされ、ヘロヘロになって帰宅した。週末のお弁当は、米3合が必須。3合分のお米をおにぎりにしてもらい、必死になって食べた。体重は増えなかったが、その分、身長が劇的に伸びた。

運動会を見に行った時、彼は100m競争に出場した。
全く期待していなかったが、ダントツの1位でゴールした。毎日、部活で走っていた彼。努力は成果として表れるものだと感心した。

大きな期待を持って挑んだ中体連の夏季大会。
結果は初戦敗退。大きな失望に包まれ、彼の野球は「終わった」と思った。

しかしその翌日、買い物に行くと、彼は、「グローブが欲しい」と言い出した。
硬式用のグローブを。

彼の野球は続いた。

希望した高校へ進学すると、躊躇なく野球部へ入部。
また新たな挑戦が始まった。

そこからはあっという間。
気付けば、最後の夏が目前に迫っている。

スポンジが水を吸い込むように、さまざまなモノを吸収し、成長する姿は嬉しく思うが、それ以上に寂しい気持ちの方が、圧倒的に強い。

今度こそ、彼の野球は「終わる」。

そう、かく言う私も、“最後の夏”を迎える高校球児を持つ親。
皆さんと同じ心境で夏を迎える父兄だ。

「あの時、ああしておけばよかった…」、「この時、こうしておけばよかったかな…」。最近はそんなことばかり考えている気がする。

この10年間、週末は彼とともにグランドで過ごした。
平日よりも早く起床し、いつも同じチームTシャツを着て、炎天下の中、彼や彼のチームメイトの動向を追った。
呑みに行く相手は、取引先からチームのお父さんへと変わり、話す内容も、仕事から野球へと変わった。
彼との会話も、仮面ライダーから、いつしか野球へと変わっていた。

だがそんな時間も、まもなく、終わる。

今、この瞬間、彼は何をやっているだろう。

ブルペンに入っているだろうか、それともバットを振っているだろうか。

「悔いなく終わる」ための準備はできているだろうか。

10年間、泥だらけのユニフォームを洗濯し、ボリューム満点のお弁当を作ってくれたお母さんたち、本当にお疲れさまでした。

毎週グランドに足を運んだお父さんたち、本当に楽しかったですね。

夏が終わった時、彼にこう言うつもりだ。

「野球をやってくれて、ありがとう」と。

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